親知らず
親知らずとは?抜くリスク、抜かないリスク
親知らずとは?
前歯から数えて8番目の奥歯のことを「親知らず」といいます。
親知らずは、10歳頃にアゴの骨の中で形ができはじめ、20歳頃になると口内に生えてきます。
親知らずが無い「先天性欠如」であることも多く、上下左右4本の親知らずがすべてそろって生えているのは、現代日本人では36%※だそうです。
さらに親知らずが欠如する割合は、時代とともに変化しています。
昭和初期以降では、欠如する割合は低くなっている※そうです。
親知らずは、他の永久歯よりも時間をおいて遅れて生えてきます。
そのため生え出る場所が不足し、位置異常も起こしやすく、「傾斜」して生えたり、歯肉に埋まったまま「埋伏」することがあります。
親知らずによる病気
虫歯・歯周病
親知らずが「傾斜」して、歯肉に半分埋まった「半埋伏」状態では、親知らずの周りが「不潔」になりやすく、親知らずだけでなく、その手前の歯(第二大臼歯)まで虫歯や歯周病になることがあります。
- 親知らずと、その手前の歯が両方とも虫歯になっている
- 親知らずの手前の歯を支える骨が、歯周病で破壊されている
歯冠周囲炎
親知らずの周囲の歯肉が、急に赤く腫れて痛くなることがあり、これを歯冠周囲炎、あるいは智歯周囲炎といいます。
この症状は20~30歳台に多くみられますが、60歳を過ぎても散見され、歯冠周囲炎が悪化すると、顔まで腫れて、口が開けにくい、ノドが痛む、さらに首や胸にまで炎症が広がれば、命に関わることもあります。
親知らずは抜いたほうがいいのか?
親知らずは、他の歯と比べても日頃のケアがしづらい位置に生えるため、虫歯や歯周病、歯冠周囲炎などの原因になることが多く、抜歯となることが多いですが、正常に生えて機能している場合や、将来的に利用する可能性がある場合は、抜歯せずに残しておいたほうが良いこともあります。
抜くリスク、抜かないリスクを十分に比較して、歯科医師と相談して判断されると良いでしょう。
親知らずを抜かないリスク
1.親知らずの病気(虫歯・歯冠周囲炎など)が悪化するリスク
親知らずは、奥にあるために虫歯治療が困難だったり、メンテナンスが難しいことがあります。
虫歯があれば、悪化して痛みが出ることがありますし、歯冠周囲炎であれば、繰り返すことがありますので、抜歯を前向きに考えます。
2.親知らずの手前の歯が病気(虫歯や歯周病など)になるリスク
親知らずの手前の歯(7番目の歯、第二大臼歯)は、「人生100年時代」に使い続けて欲しい歯といえます。
親知らずがあるために、親知らずの手前の歯が虫歯になっていたり、常に不潔で虫歯や歯周病のリスクが高いと判断できる場合は、親知らずの抜歯を前向きに考えます。
親知らずを抜くリスク
1.抜歯による痛み・腫れなどの合併症のリスク
抜歯による主な合併症(手術併発症)には、下記のようなものがあります。
痛み・腫れ | 3日程度は痛み・腫れが予想されます。 痛み・腫れが気にならなくなるまで1~2週かかることがあります。 |
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出血・内出血 | 2日程度は、にじむ程度の出血はあります。 出血が気になる場合、ガーゼなどを出血部位に押し当て、噛むなどして圧迫止血してください。 頬に青アザが出ることもあります。1〜2週間で消えます。 |
周囲の歯・骨 | 周囲の歯の損傷、脱臼、詰め物・被せ物の脱離など、偶発症が起こることがあります。 周囲の骨が薄い場合、薄い骨に亀裂や破折が起こることがあります。 術後、尖がった骨の一部が歯ぐきの外に露出することがあります。 |
一部残存 | 根が細く曲がっている場合、抜歯の途中で根が折れることがあります。 無理して歯の全てを取らずに、一部を残すことがあります。 |
感染 | まれに手術部位が感染し、しだいに赤く腫れ、痛みや膿が出ることがあります。 典型的な術後感染は、術後すぐではなく、10日程度経過してから生じます。 |
顎関節の脱臼 | きわめてまれに顎関節が脱臼することがあります。 脱臼した場合、すぐに整復します。 |
歯の誤嚥・吸引 | 抜去歯が咽頭に落ちる場合があります。 咽頭に歯が落ちた場合は、直ちに横を向いて、歯を吐き出してください。 食道内へ誤嚥した場合、多くは2~3日後に排出されます。 気管に吸引された場合は、気道を閉塞して危険なことがあります。 処置中は、鼻で呼吸し、口では呼吸しないでください。 |
処置の中止 | 予測できない偶発症により外科処置の遂行が困難な場合は、処置を中止し、必要に応じて高度医療機関へ紹介させていただくことがあります。 |
合併症の治療費 | 処置の中止や、合併症の治療に対しても、保険診療の制度に則って、治療費が発生します。 |
上顎洞の交通(上顎の臼歯) | 手術部位が、上顎洞と近いので、上顎洞に穴があき、口と鼻が交通することがあります。その場合、鼻血や上顎洞炎などの鼻症状が生じることがあります。 きわめてまれに抜歯する歯が、上顎洞に迷入することがあります。 |
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皮下気腫 | 回転切削器具から出る圧縮空気が皮下に入り、皮下気腫を生じることがあります。 ほとんどの場合、1〜2日で自然に改善します。 |
感覚障害(下顎の臼歯) | 手術部位が、下歯槽神経や舌神経と近いので、術後に、唇・あご・歯ぐき・舌に、麻酔が効いているような「しびれ感」などの「感覚障害」が残ることがあります。 多くの場合、一時的な症状で、月単位で徐々に改善しますが、年単位の長期間継続することもあります。 |
2.将来的に利用できる親知らずを失うリスク
親知らずの移植
1)「ブリッジや入れ歯の支えとして親知らずを使う」という選択肢がなくなるリスク
親知らず以外の奥歯を失った場合、ある程度しっかり生えている親知らずであれば、ブリッジや入れ歯の支えとして使うことができます。
親知らずを抜歯してしまえば、それらの治療の選択肢は無くなります。
2)「親知らずの移植」という選択肢がなくなるリスク
親知らず以外の奥歯を抜歯しなければいけなくなった場合、抜歯してできた「穴」に、親知らずを「移植」し、再び噛める状態にできることがあります。
親知らずを抜歯してしまうと、「移植」に利用できる歯(ドナー歯)がなくなり、「移植」という選択肢がなくなります。
3)「矯正治療で親知らずを噛み合わせに参加させる」という選択肢がなくなるリスク
親知らずの手前の歯(7番目の歯)に虫歯などの問題がある場合、「7番目の歯」を抜歯して、代わりに親知らずを矯正治療で、抜歯した7番目の歯の場所まで移動させて、噛み合わせに参加させることができる場合があります。
親知らずを抜歯してしまえば、そうした矯正治療の選択肢は無くなります。
※参考
•日本人第3大臼歯欠如頻度の時代変化、山田ら、2004